小島 薫(こじま かおる)氏
一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会 代表理事。文系大学を卒業後、製造業企業に入社。システム導入などを担当。その後、ウイングアーク1st株式会社へ入社。執行役員CMOなどを歴任。運輸デジタルビジネス協議会の設立に携わる
一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)
運輸業界とICTなど多様な業種のサポート企業が連携し、デジタルテクノロジーを利用することで運輸業界を安心・安全・エコロジーな社会基盤に変革し、業界・社会 に貢献することを目的として2016年に設立
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■物流業界は他業界より2割長く働いている
――物流業界ではいよいよ「2024年問題」が間近に迫ってきましたね。

はい。そもそも物流業界には他の業界よりも平均労働時間が2割長いという課題がありました。さらに、賃金は全産業平均よりも約1~2割低い状況でした。この背景にあるのは、トラックドライバーの高齢化や、若手ドライバーが不足していることなど、さまざまです。また、もちろん長時間運転や荷物の積み込みなど、仕事上の特徴もありました。
――”つまり、簡単に言ってしまえば「トラックドライバーが長時間労働で、低賃金で働いていた」と。
そこで働き方改革の一環として、働き方改革関連法が成立し、2024年の4月から「時間外労働は年間960時間の上限規制」、そして改正改善基準告示によって「拘束時間の改善」が図られることになったのですね。
――それがなぜ「2024年問題」と言われるのですか?
これまで働きすぎていたところに、労働時間が短くなるということは、物流業界として輸送能力の低下に直結します。
もっと言えば「モノが運べなくなるんじゃないか」「届かなくなるんじゃないか」という可能性が出てきたということで、物流はみなさんの仕事や生活に密接に関わりますから、業界のみならず問題解消に強い関心が寄せられています。
この働き方改革関連法が成立したのは2018年ですが、以来、主に物流事業者側の解決努力に委ねられてきたという実態があると思っています。
ただ、現在でも対応の目途が立っている物流事業者はごく少数に留まっていますから、いよいよ2024年の4月が目前に迫ってきており、対応が求められています。
■問題は“残業”だけではない
――「2024年問題」を受けて、残業に関心が寄せられることも多いですよね。

そうですね。確かに関心は高いと思います。
たとえば「長距離輸送ができなくなるのではないか」という可能性は、事業への影響は大きいですし、さらには「今いる従業員だけでは輸送ができない」という心配からドライバーを確保したいと思っても、そう簡単にはいきませんよね。
ただ今回、みなさんに着目してほしいと思っているのは荷待ち時間の削減なんです。
――荷待ち時間の削減というと、どういうことでしょう。
国土交通省が調査した2021年の「トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」では、トラックドライバーの1運行の平均拘束時間は11時間5分と言われています。
ですが、より細かく見ていくと「荷待ち時間がある運行」のほうが「荷待ち時間がない運行」に比べて平均拘束時間が1時間48分長いという現状があります。この2021年の調査を、6年前の2015年の同調査と比べると、荷待ち時間を伴う運行の割合は減少しているものの拘束時間がまだまだ多く、問題解決には至っていないと言えるでしょう。
道路貨物運送業は、脳や心臓疾患による労災支給件数が最も多い業界です。このままでは、労働力の確保どころか、トラック産業を継続させることも難しくなるかもしれません。労働時間の管理は、ドライバーの命や健康、ひいては産業全体を守ることにもつながるでしょう。

また物流事業者は、貨物を輸送する契約を発荷主事業者と直接結ぶことが多いです。そのため物流に関して契約当事者ではない荷物を受け取る側企業や消費者にとっては、このような物流の状況について理解する機会が限られています。
さらに「R3年度トラック輸送状況の実態調査結果」を見ると、約23%の荷主事業者はこのような待機時間、荷役作業が発生しているかどうか自体を把握していません。また、荷待ち時間が発生していて、その時間を把握している事業者は5.7%に過ぎません。実情が知られていないことから「改善されない」「協力を得られない」という問題が発生しています。

――それは改善が難しそうですね。
難しいですね。そのため、まずはトラックドライバーの労働条件の改善を図るために、拘束時間や休息期間、運転時間等の基準を定めた「改善基準告示」(2024年4月に改正予定)を確認し、自社や委託の物流事業者の現状を認識することが求められます。
改善基準告示は、法律ではなく厚生労働大臣告示であるため、罰則の規定はありません。ただ、労働基準監督署により違反を指摘された場合は自主的改善が図られるように指導が行われるので、日頃から意識をしていくことが大切です。
また2023年7月からは、適正な取引を促すため、国土交通省がトラックGメンによる荷主への監視体制を強化しています。悪質な荷主に対しては「要請」「勧告・公表」を実施しています。関係者との意見交換をする中でも、トラックGメンの活動により、荷主との運賃交渉でも理解が得られやすくなっているとの話もでています。
改めて、自社や委託の物流事業者へ現状を確認し、必要に応じて連携、改善の取組みを進めることが大事です。
――では、まずは荷待ち時間に対して非効率だったところを改善する必要があると。
そうですね。荷待ち時間等の課題に対しては、経済産業省、農林水産省、国土交通省が2023年6月に策定した「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」の中でも改善策が提案されています。
まず発着荷主事業者は、実運送事業者のドライバーが荷待ち時間や荷役作業にかかる時間を把握すること。
■荷待ち時間を把握して改善につなげる
――効果的な対策はあるのでしょうか。

先ほどもお伝えしたように、荷待ち時間の改善には時間管理が欠かせません。ただ、毎日紙で記録をしていくのは手間もかかりますし、資料が膨大になってしまいます。
そのため、荷待ち時間を始めドライバーの運行時間等も複合的に管理するには、ネットワーク型のデジタル式の運行記録計「デジタコ(デジタルタコグラフ)」が必要となります。
特に、2時間ルールを順守するためには、日々の運行の中での改善が不可欠です。荷待ち時間の発生の事由については様々想定されます。例えば、荷待ち時間が1時間を超えたら、発荷主事業者が、物流事業者や着荷主事業者と連携して、対応するなど、日々の改善活動が重要になるのです。
そのためには、リアルタイムでの荷待ち時間等の把握が必要となります。だからこそネットワークに接続されたデジタル式の運行記録計「デジタコ(デジタルタコグラフ)」が必要不可欠です。1カ月の乗務記録を物流事業者から取り寄せたら、やっぱり今月も2時間を超えていたというのは認められないということになります。
例えば、トランストロンさんの場合ですと「DTS-G1D」や「DTS-G1O」でしょうか。
参考までに、先ほどの「ガイドライン」でも物流事業者の実施が必要な事項(個別事項 運送モード等に応じ、実施することが求められる事項)として、荷待ち時間等の把握にあたっては、デジタル式運行記録計を活用することにより、客観的な把握に努める。とされています。
―時間管理には、ネットワーク型のデジタコが最適なのですね。
はい。時間をリアルタイムに正確に管理することができるネットワーク型のデジタコは、荷待ちの課題に直接アプローチすることができます。
荷待ちの時間は、2024年問題の中でも見えにくい課題です。でも、そういった積み重ねがドライバーの負担を増加させています。またトラックGメンの監視の目も厳しくなっているため、荷主事業者にとっても早急な改善が必要でしょう。
荷待ち問題の解決に向けた第一歩に、荷主事業者にとっても物流事業者にとってもネットワーク型のデジタコが強い味方になると思います。
今後は、政策パッケージの実践に向けて荷主事業者がネットワーク型のデジタコ導入のスポンサーになる可能性は高いと思います。
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