
小島 薫(こじま かおる)氏
一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会 代表理事。文系大学を卒業後、製造業企業に入社。システム導入などを担当。その後、ウイングアーク1st株式会社へ入社。執行役員CMOなどを歴任。運輸デジタルビジネス協議会の設立に携わる
一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)
運輸業界とICTなど多様な業種のサポート企業が連携し、デジタルテクノロジーを利用することで運輸業界を安心・安全・エコロジーな社会基盤に変革し、業界・社会 に貢献することを目的として2016年に設立
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■喉元過ぎて熱さを忘れた“2024年問題”?
――兼ねてから警鐘が鳴らされていた「2024年問題」について、時間外労働時間の年 “960時間”の制限がいよいよ2024年4月1日から始まりましたね。
はい。これを受けて業界ではトラックドライバーの労働時間の制限に合わせた労務環境の整備等を行ってきたのは、これまでお伝えしてきたとおりです。
――メディアでも頻繁に報道されていましたね。ただ報道は4月に入るとやや沈静化したような印象もあります。
多くの方にとっては「あれだけ言われていたけれど、ちゃんと物流は動いているね」という思いから、ニュース性は乏しいのかもしれませんね。
しかし物流業界としては、物流関連2法の改正案が後4月26日に参議院本会議で可決成立しており、既に5月15日に公布されています。
――とても目まぐるしく動いています。そもそも2024年問題以前に、業界としては働く環境を改善していくことは大事ですし、4月を過ぎたからと言って何も終わったわけではないですよね。
改正物流2法については5月15日に公布されただけでなく、一部を除いては、そこで示されたことを1年以内に実施することが決められているんです。事業者がこれに対応していくのは相当に大変であると予想されます。
■改正物流2法でのポイント
――では事業者がどのようなことに対応していかなければならないのか、ポイントを教えていただけますか。2法とは具体的に「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物資の流通の効率化に関する法律に題名変更)」と「貨物自動車運送事業法」があります。まず物流総合効率化法についてはどうでしょうか。
ポイントを平たく言うとまず、荷主も物流事業者もトラックの積載率を高めていくために対処していくということ。さらに荷主はトラックドライバーの荷待ち時間などを短くするために対処するということですね。
また特定の事業者(輸送能力等が一定以上で国土交通大臣等の指定を受けた者)は、これらの対処について中長期計画の策定と物流統括管理者を置くことが義務付けられます。
――なるほど。では貨物自動車運送事業法についても教えてください。
ここで大事なことは2点あると思います。
1点目は運送契約について。
運送契約は、運送毎の個別契約・対価の記載・書面化・相互交付という4つのポイントがあります。つまり、運送1件ごとに個別契約を作り、対価をきちんと書面にしたうえで、運送事業者と発荷主事業者が相互にこれを取り交わさなければなりません。
また、着荷主もその個別契約の内容を知っておく必要があります。
たとえば電話で「よろしくね」と対価も曖昧なまま、依頼をするということはできなくなるということですね。
そして2点目は実運送体制管理簿の作成と保管です。
業界の労務管理上、多重下請け構造は課題の一つですので、これを「一次下請」「二次下請」と下請けのレベルまでを明記した管理簿を作ることになりました。
――必要なことであるにしても、事業者として楽なことではありませんね。
はい。たとえば運送契約にしても、これを整備するための期間が1年内ということを考えると、今すぐにでも対応を考えなければならないでしょう。
またこの改正物流2法以外にも、価格という観点から事業者に押さえていただきたいものがあります。
■エビデンス無しには価格交渉にも臨めない
――価格の観点ということは、収益に直結する重要な話です。どういうことなのでしょうか?
2024年問題に当たって、政府が行ってきたことは法律の見直しだけではないのですね。
重要なのは「標準的運賃」等の見直しです。3月22日に告示され、標準運送約款が6月1日より施行されました。
荷待ち時間についてはすでに時間あたりの単価が決まっていましたが、今回、荷役作業についても単価が決まりました。
さらに、荷待ち・荷役で2時間を超えた場合の割り増しについても決まっていますので、厳格な時間管理が求められるようになっています。
――荷待ち・荷役時間を把握できるようにしなければならないわけですね。
さらに、下請け手数料(利用運送手数料)が設定されました。これは下請けに出す際に、運賃の10%を別に収受するというものです。
つまりいわゆる「中抜き」ができなくなりました。二次下請まで使う場合は、一次下請・二次下請の分、10%ずつ乗せて荷主に請求することになります。ですから運賃が下請構造によって変動するようになります。
ここで先ほどの実運送体制管理簿が重要になります。実運送体制管理簿には下請け先が明記され、下請構造と下請け手数料とが紐づけられるからです。
――収益に直結してくることがよくわかります。
今まで、発荷主側は荷物の積み込みの時間はわかっていても、着荷主側での積み卸しの時間はまず把握していませんでした。
それが今後は「荷待ちと荷積み・荷卸しでこれだけの時間がかかりました。ですのでその分の請求をさせてください」という話をするということになっていくでしょう。かかった労力をきちんと価格に転嫁していくという話ですね。しかし、その時間管理自体が曖昧では始まりません。
また、一方で適正な運賃交渉のためには、適切な原価管理が必要です。
国土交通省は「トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」を出しています。この中で原価計算にも触れています。原価計算ではたとえば「キロあたりのコスト」を把握するわけですが、「キロあたり」ということは走行距離を把握していないといけない。
物流事業者は自分たちの運送における時間や距離などの実態を、きちんとわかるようにしなければなりません。
個別契約を行い、それに基づいて運送を行う。運送については時間や距離などの実態をきちんと把握する。その実態と突き合わせて請求内容を確定させたり、運賃交渉に臨むというサイクルになっていくでしょう。
参考:「トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」(国土交通省)
■働きやすい物流事業にしていくために
――では、運送の実態の把握のために物流事業者はどのような対応をすべきでしょう。
これにはネットワーク型「デジタコ(デジタルタコグラフ)」しかないと思います。
エビデンスとして、デジタルで運行および業務記録をとることは必須になるでしょう。また、同様にパートナーの車両を含め様々なメーカーのデジタコデータを一元的に、かつリアルタイムに収集、管理するためにtraevoプラットフォームとの連携も重要になります。
バックオフィス業務側の負荷を最少に時間管理やその記録に基づく運賃・料金の請求管理が可能となります。
発荷主事業者との運送毎の個別契約の管理という点でも、これまでのようなアナログな形では業務が回っていかないと思います。
言ってみれば、デジタコはタクシーメーターと同じような存在になると思います。
――タクシーに乗ったときに、タクシーメーター無しでは適正な運賃かわかりませんからね。
2024年問題とは単に労働時間を減らすという話ではありませんでした。働きやすい環境を積極的に作っていくという趣旨だと捉えています。そして改正法を見れば、それは“時間”と“お金”の両面で、その環境を作るということだと思います。
トラックドライバーの「年間960時間の時間外労働の上限規制」についても、既に一般則は「年間720時間」ですから、今後、どこかのタイミングで一般側に合わせていくことになります。
日本全体として労働人口が減っています。この先を見据えれば、単純に“時間”を減らし、“お金”を増やすというだけではなく、やはりデジタル化とネットワークでどれだけ余分な工数を減らしていくか。今回の法改正で求められていることの実現には、かなりの工数がかかるでしょう。物流DXはその点で重要な取り組みではないでしょうか。
さらに詳しい情報を知りたい方へ
【TDBC Fourum2024】のご案内
「改正改善基準告示と時間外労働規制、そして物流2法改正は何をもたらすのか?」
開催日:2024年7月5日(金)
時間:13:00~17:00
会場:オンラインにて開催
参加費:無料 ※事前登録制
TDBC Forum 2024