
小島 薫(こじま かおる)氏
一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会 代表理事。文系大学を卒業後、製造業企業に入社。システム導入などを担当。その後、ウイングアーク1st株式会社へ入社。執行役員CMOなどを歴任。運輸デジタルビジネス協議会の設立に携わる
一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)
運輸業界とICTなど多様な業種のサポート企業が連携し、デジタルテクノロジーを利用することで運輸業界を安心・安全・エコロジーな社会基盤に変革し、業界・社会 に貢献することを目的として2016年に設立
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■物流関連2法の改正案の閣議決定を受けて
――「2024年問題」に対応する物流関連2法の改正案の閣議決定が2月13日に発表されましたね。

業界団体の私たちとしては率直に「寝耳に水」でした。その内容が正直なところ想定していなかったものでしたから。
――それはつまりどういうことなのでしょう?
今回の条文案からは、バース予約受付システムの活用や時間指定による荷積み、荷卸しの推奨だと読めるのですね。これは物流事業者に大きなインパクトがあると思います。
そもそもこれまで、自動車運転業務の年960時間の実施に向けて、ドライバーの労働時間短縮を目指してきましたよね。そこで経済産業省、農林水産省、国土交通省が一緒になってガイドライン(※1)を作って発表してきました。
ガイドラインには発荷主事業者・着荷主事業者に共通する取組事項の例として「荷待ち時間・荷役作業等にかかる時間の把握」「荷待ち・荷役作業等時間原則2時間以内ルール」「物流管理統括者の選定」「物流の改善提案と協力」などが挙げられていました。
※1 「物流の適正化生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(経済産業省・農林水産省・国土交通省、2023年6月2日発表)
――発着荷主事業者が物流事業者と連携して業務改善を図り、2時間以内を実現するということでしたね。
はい。それがすでに実現できていれば、さらに「1時間以内を目指す」など、理想的な労働環境をつくりだしていこうとするものでした。
ところが今回の改正案では、発荷主、着荷主がそれぞれ時間を管理することになっていて、果たして“全体の時間”を誰が把握しているのかがわからない。これでは全体的な合理化を成し得ないのではないでしょうか。
――今回の改正案では、一定規模以上の貨物を扱う事業者(荷主)が「特定事業者」とされ、計画策定と定期報告を求められるようになっていましたね。
他にもいろいろな論点はあります。ただその中でも今回、私たちが声を大にして伝えたいのはバース予約受付システムの課題なのです。
発着荷主はバースにキャパシティ以上の車両が来る時間を作ってはならないとされていますから(※2)、計画的に車両が来るためにはシステム等により管理することになるでしょう。詰まるところ、バース予約受付システムの導入につながります。しかし、これにより物流事業者に生じる課題は少なくないと考えます。
※2 「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法)」改正案 第三十七条 二
■物流事業者が把握すべきバース予約の課題とは
――TDBCではバース予約受付システムについて、現状どのような問題があり得ると捉えているのでしょうか。

TDBCとしては、2022年から通常のワーキンググループとは別に、バース予約受付システムの課題解決に向けて取り組んできました。特に納品先である着荷主側でバース予約受付システムが導入された場合、多くの課題があると考えられます。
代表的な5つの課題を紹介しますね。
- 新たな工数(予約)の発生
バース予約受付システムへの予約自体が新たな工数。かつ、システム予約開始時間が夜中であるケースもあり、自ずと勤務時間に影響を及ぼす「夜中の予約」となることもあり得る - システムの多画面問題
事業者ごとにシステムが異なるため、システムごとの操作やルールを習熟する必要が生じる。 - 希望時間帯の予約集中
運行に都合のよい時間帯への予約希望の集中により、予約できない可能性がある。さらにそれを避けるために運送依頼確定前の仮予約により、予約混雑が助長される可能性がある。 - 予約時間の制約による非効率な配車計画
予約前提の配車になるため、非効率な配車計画にならざるを得なくなる。 - アンサーバック方式のシステムの場合の時差
アンサーバック(メールバック)方式のシステムの場合、通知を待つ時間が発生し、配車確定後の予約確定になることもある。
――実に多くの問題が生じる可能性があるということですね。
これらは実際の事業者へのヒアリング等からわかっていることです。
具体的にこんなケースもあるのですね。TDBCの会員である物流事業者から報告いただいた話です。
そこでは大型車2台で配送計画を組んでいました。それがバース予約により、効率のよいルートで配送することができなくなりました。同時間帯にバース予約が重なれば、物理的に1台で回ることはできません。そこで、この事業者は4台で回らざるを得なくなったそうです。
結果的に積載率は低下し、必要となるドライバー数や総労働時間も増え、さらに燃料費やCO2排出量も増えてしまいました。本来、あるべき姿とは異なる状況ですよね。
■物流全体で効率化は図れるのか
――一方でバース予約受付システムによるメリットはないのでしょうか。
荷主側の待機時間が減ることはメリットだと言えると思います。予約時間に来てもらうことで、荷主側は効率化を図れることでしょう。けれども、待機時間をどう見るかというのも、ここでの課題です。
―待機時間の捉え方ですね。
当然ながら、道路状況などによって正確な運行時間の管理は難しくなりますから、予約したところで、予約時間よりも前に着いて待機するはずです。この予約時間前の待機時間は、物流事業者の責任待機時間となります。
そのため、確かに荷主側でカウントする待機時間は減ることでしょう。しかし一方で、物流事業者の待機時間は変わらないどころか、非効率的な配車計画を立てざるを得なくなり増える可能性すらあります。これまで物流事業者にとっては効率的な配送計画の策定がある種の権利でした。それが非常に難しくなっていくと考えられるのです。
もちろん荷主事業者が工夫をして、時間が空いていれば予約前に着いている事業者を繰り上げるなど、臨機応変な対応により荷待ち時間を減らしている好事例もあります。ただ、もともと人手不足が否めない物流業界ですから、どこでもすぐにそのような対応ができるかと言えば疑問でしょう。
#政策パッケージ 対応は進んでいますか?#バース予約システム の導入を推奨しています。#TDBC では会員企業のバース予約システムのデータから待機時間の状況を分析してみました。
— (一社)運輸デジタルビジネス協議会(TDBC) (公式) (@TDBCJP) January 25, 2024
荷主企業都合と #運送事業者 都合の分類、予約の有無、パレット・バラ、曜日などの傾向を見ています。… pic.twitter.com/0f6lGvG4JP
――物流全体の効率という観点では、どのように考えていけばいいと思いますか。
最初にお話したとおり、今回の改正案では“全体の時間”を把握するのが誰かがわからなくなっていると思います。
現在、バース予約受付システムの普及率は約7%と言われていますが、今回の改正案により普及率は上がるでしょう。システム普及率やシステム上で把握できる荷待ち時間はデータで測れます。荷主側の効率化は評価されるに違いありません。
対して物流事業者の負担は、そのデータには表れません。誰が見てくれるわけでもない。けれども先に挙げたような5つの課題などが考えられる……。「新2024年問題」と言っていいでしょう。
そこで重要になってくるのが物流事業者は物流事業者で、自分たちの業務をきちんとデータで把握していくことなのです。
■業界全体の効率化・合理化を進めるためのデジタコ活用
――物流事業者もきちんと実態をデータで把握していく必要があるということですね。
はい。そこで有用なのがデジタル式の運行記録計「デジタコ(デジタルタコグラフ)」です。自動的に荷待ち時間を始めドライバーの運行時間等も複合管理できます。また、traevoプラットフォームのような、車両位置情報や作業ステータス情報を確認できるネットワークによりデータ共有していく仕組みも必要でしょう。
荷待ち、荷役時間短縮は、荷主事業者側のバース予約受付システムのデータと、物流事業者側のデジタコのデータの両方を見て、評価しなければならないと思います。
――デジタコは物流事業者にとって不可欠ですね。
物流業界が持続可能な業界であり続けるために、自分たちが一生懸命頑張っていることを、主張する必要があります。デジタコはその裏付けとなります。
物流事業者は自分たちを守るために、しっかりと作業ステータスをデータ化し、データに基づいて、荷主側への報告・連携や、社会に対して「現場で何が起きているか」を伝えていかなくてはならないと思います
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