【運送業必読】2024年問題と2026年度以降の労働法改正-今すぐ始める対応完全ガイド

最終更新: 2025年12月14日

「ドライバーの労働時間管理が複雑すぎて、何から手をつければいいのか分からない…」

2024年4月、運送業界に時間外労働960時間の上限規制が適用され、現場では配車計画の見直し、人員不足への対応、荷主との交渉など、対応に追われる日々が続いています。

さらに、2026年度以降には労働基準法の約40年ぶりとなる大改正も検討されており、運送業への影響はさらに大きくなることが予想されます。

この記事では、すでに施行されている2024年の規制と、これから来る2026年度以降の改正案の両方を徹底解説。運送事業者が今すぐ取り組むべき対策を、具体的なチェックリスト付きでお届けします。


📌 本記事で分かること

  • 2024年問題とは?改善基準告示の正確な内容
  • 2026年度以降の改正案で何が変わるのか
  • 労働基準法と改善基準告示の違いと罰則
  • 運送業が気をつけるべき10の重要ポイント
  • 今日から始められる具体的な対応策

読了時間: 約15分


目次

  1. 【確定】2024年問題と改善基準告示の全容
  2. 【検討中】2026年度以降の労働基準法改正案
  3. 労働基準法と改善基準告示の違いを理解する
  4. 運送業が今すぐ対応すべき10の重要ポイント
  5. 段階別対応ロードマップ【チェックリスト付】
  6. よくある質問(FAQ)

⚠️ 重要なお知らせ

本記事では、確定している情報検討段階の情報を明確に区別して解説しています。
  • 確定: 2024年4月から施行済み(改善基準告示・時間外労働規制)
  • 📋 検討中: 2026年度以降に検討されている労働基準法改正案
検討中の内容は、2026年の通常国会への法案提出が見込まれていますが、国会審議により変更される可能性があります。

1. 【✅確定】2024年問題と改善基準告示の全容

2024年問題とは?運送業界を襲った”静かな革命”

2024年4月1日。この日、運送業界の働き方は大きく変わりました。

時間外労働の上限規制(年960時間)

これまで事実上無制限だったトラックドライバーの時間外労働に、年間960時間という上限が設けられました。

具体例で見る影響:

  • 改正前: 月80時間×12ヶ月=年960時間 + それ以上も可能
  • 改正後: 年960時間が絶対上限(月平均80時間)
  • 違反時の罰則: 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

業界への影響

国土交通省の試算によると、この規制により:

  • 輸送能力が約14%減少
  • 2030年にはドライバー約25万人が不足
  • 運賃値上げ圧力の増大
ある中堅運送会社の運行管理者はこう語ります。 「以前は無理を承知で長距離輸送を引き受けていました。でも今は、年間960時間を超えないよう、毎月エクセルで管理する日々です。断る仕事も増えました」

改善基準告示の2024年4月改正【最重要ポイント】

時間外労働規制と同時に、「改善基準告示」も大幅改正されました。

改善基準告示とは?

正式名称: 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(厚生労働大臣告示)

目的: トラックドライバーの長時間労働を防止し、健康確保と国民の安全を確保

対象:

  • 営業用トラック(緑ナンバー)
  • 自家用トラック(白ナンバー)の運転者

【重要】改正前後の比較表

項目 改正前(〜2024年3月) 改正後(2024年4月〜) 変化
年間拘束時間 3,516時間 原則3,300時間 (労使協定で3,400時間まで可) ▲216時間
月間拘束時間 原則293時間 (年6か月まで320時間) 原則284時間 (労使協定で年6か月まで310時間) ▲9時間
1日の休息期間 継続8時間以上 継続11時間以上(努力義務) 最低9時間 +3時間
1日の拘束時間 最大16時間 (15時間超は週2回まで) 最大15時間 (14時間超は週2回までが目安) ▲1時間
運転時間 2日平均1日9時間 2週平均1週44時間 変更なし
連続運転時間 4時間 (やむを得ない場合4.5時間) 変更なし

重要用語の解説

拘束時間とは?

拘束時間 = 労働時間 + 休憩時間

出社(始業)から退社(終業)までのすべての時間。待機時間も含まれます。

具体例:

  • 朝8時出社 → 夜21時退社 = 拘束時間13時間
  • このうち実際の運転・荷役が10時間、休憩3時間でも、拘束時間は13時間

休息期間とは?

休息期間 = 業務終了から次の始業までの時間

この間、労働者は会社の拘束を一切受けません。

具体例:

  • 夜23時退社 → 翌朝10時出社 = 休息期間11時間 ✅
  • 夜23時退社 → 翌朝8時出社 = 休息期間9時間 ⚠️(最低基準)
  • 夜23時退社 → 翌朝7時出社 = 休息期間8時間 ❌(違反)

430休憩ルールの厳格化

430(ヨンサンマル)休憩とは、連続運転4時間後に30分以上の休憩を取るルール。

2024年4月の変更点

改正前: 「おおむね連続10分以上」が3回で合計30分でもOK 改正後: 1回あたり「おおむね連続10分以上」が必要

よくある違反パターン:

❌ 4時間運転 → 5分休憩 × 6回 (合計30分)
   → 1回あたり10分未満のため違反

✅ 4時間運転 → 10分休憩 × 3回 (合計30分以上)
   → 適法

✅ 4時間運転 → 30分休憩 × 1回
   → 適法

月310時間延長時の注意点【見落としがち】

労使協定により月284時間を310時間に延長する場合、以下の条件があります:

条件①: 284時間超は連続3か月まで

例: 4月310時間 → 5月310時間 → 6月310時間 → 7月は284時間以下

条件②: 月100時間未満の時間外・休日労働に努める

月の拘束時間が310時間でも、実労働時間(時間外+休日労働)は
100時間未満を目指す必要があります

2. 【📋検討中】2026年度以降の労働基準法改正案

2024年問題への対応が落ち着かないうちに、さらなる規制強化の波が迫っています。

📋 この章の内容について

以下で解説する内容は、2025年12月現在、厚生労働省の労働基準関係法制研究会で検討されている段階です。
  • 法案提出: 2026年通常国会への提出が見込まれています
  • 施行時期: 早ければ2027年4月からの可能性
  • 変更の可能性: 国会審議により内容が変更される可能性があります

なぜ今、40年ぶりの大改正なのか?

現行の労働基準法は、1987年の改正以来、大きな見直しがされていません。

しかし、この40年で働き方は激変しました:

  • テレワークの普及
  • 副業・兼業の一般化
  • ギグワーカーの増加
  • 長時間労働による過労死問題

法律が実態に追いついていない。この問題を放置できない——それが今回の改正検討の背景です。


【検討中】7つの主要改正ポイント

ポイント① 14日以上の連続勤務を禁止

現行: 4週4日休日制の特例により、理論上24日間の連続勤務が可能

改正案: 14日以上の連続勤務を禁止(=最大13日間まで)

運送業への影響:

  • 週休2日制の徹底が必須
  • 繁忙期でも連続勤務は13日まで
  • シフト作成が複雑化
  • 人員不足の場合、追加採用が必要

具体例:

❌ 現行法で可能なパターン
月初4日休み → 残り24日連続勤務

✅ 改正後
最大13日勤務 → 最低1日休み → 次の勤務開始

ポイント② 勤務間インターバル11時間の義務化

現行: 努力義務(導入率わずか6%)

改正案: 原則11時間、最低9時間を義務化

運送業への影響:

❌ 改正後は不可能
23時退社 → 翌朝8時出社(9時間しか空いていない)

✅ 改正後
23時退社 → 翌朝10時以降出社(11時間以上)

⚠️ 最低限
23時退社 → 翌朝8時出社(9時間、最低基準)

改善基準告示との関係:

  • 改善基準告示(2024年): 継続11時間(努力義務)、最低9時間
  • 労働基準法改正案: 同様の基準を完全義務化

つまり、改善基準告示ですでに求められている基準が、労働基準法でも義務化される流れです。


ポイント③ 法定休日の事前特定が義務化

現行: 曖昧でもOK

改正案: 就業規則で法定休日を明確に特定

なぜ重要?

休日出勤の割増賃金率が異なるため:

  • 法定休日: 35%以上
  • 法定外休日(週40時間超): 25%以上

具体例:

【改正前】曖昧な規定
「週1回の休日を与える」
→ どの曜日が法定休日か不明
→ 休日出勤の割増賃金でトラブル

【改正後】明確な規定
「毎週日曜日を法定休日とする」
→ 日曜出勤は35%以上の割増
→ トラブル防止

ポイント④ 有給休暇賃金の計算方法統一

現行: 「平均賃金」「標準報酬日額」「通常賃金」から選択

改正案: 「通常賃金」に統一

運送業への影響:

パートタイマーや日給制ドライバーの有給取得日の賃金が増加します。

具体例(月15日勤務のパートドライバー):

【現行】平均賃金方式
日給10,000円 × 15日 = 150,000円/月
平均賃金 = 150,000円 ÷ 30日 = 5,000円/日
→ 有給取得日は5,000円(出勤日の半額!)

【改正後】通常賃金方式
有給取得日 = 10,000円(出勤した場合と同額)

ポイント⑤ 「つながらない権利」の確立

新設: 勤務時間外の業務連絡に応じなくても不利益を受けない権利

運送業での実務:

  • 休日のドライバーへの緊急配車依頼が制限される
  • 深夜・早朝のLINE連絡の見直し
  • 時間外連絡のルール化が必要

企業が取るべき対応:

  • ✅ 就業規則に時間外連絡のルールを明記
  • ✅ 緊急時の連絡体制の整備(当番制など)
  • ✅ コミュニケーションツールの運用ルール作成

ポイント⑥ 週44時間特例の廃止

現行: 特定業種で常時10人未満の事業場は週44時間まで可

対象業種:

  • 商業(小売店、飲食店など)
  • 映画・演劇業
  • 保健衛生業(理美容業など)
  • 接客娯楽業

改正案: すべての事業場で週40時間に統一

運送業への直接影響は限定的ですが、小規模運送事業者で該当する場合:

週4時間 × 4週 = 月16時間分の割増賃金が発生
年間では約200時間分のコスト増

ポイント⑦ 管理監督者の労働時間把握義務化

現行: 管理職は労働時間管理の対象外

改正案: 管理監督者も含め全員の労働時間を客観的に把握

運送業での対象者:

  • 運行管理者
  • 配車担当者
  • 営業所長・支店長

目的: 「名ばかり管理職」の長時間労働を是正


3. 労働基準法と改善基準告示の違いを理解する

「労働基準法と改善基準告示、どっちを守ればいいの?」

答え: 両方守る必要があります

多くの運送事業者が混乱しているこの2つの違いを、分かりやすく解説します。


法的性質の違い【一覧表】

項目 労働基準法 改善基準告示
法的位置づけ 法律 厚生労働大臣告示
対象 すべての労働者 自動車運転者
直接的な罰則 あり 6か月以下の懲役または 30万円以下の罰金 なし
間接的な罰則 あり 行政処分 (車両停止、許可取消等)
監督機関 労働基準監督署 労働基準監督署 国土交通省地方運輸局

規制内容の違い【分かりやすく図解】

労働基準法が規制するもの

【労働基準法の対象】
┌─────────────────┐
│ 時間外労働の上限    │ → 年960時間
│ 休日労働           │ → 週1回以上
│ 割増賃金           │ → 25%以上
│ 年次有給休暇       │ → 年5日取得義務
└─────────────────┘

改善基準告示が規制するもの

【改善基準告示の対象】
┌─────────────────┐
│ 拘束時間          │ → 年3,300時間、月284時間
│ (労働時間+休憩時間) │
│                   │
│ 休息期間          │ → 継続11時間(努力)、最低9時間
│ (勤務間インターバル)│
│                   │
│ 運転時間          │ → 2日平均1日9時間
│                   │    2週平均1週44時間
│                   │
│ 連続運転時間      │ → 4時間
└─────────────────┘

【重要】両方をクリアして初めて適法

ケーススタディ: あるドライバーの1ヶ月

実労働時間(時間外含む): 220時間 → 労働基準法: ✅
拘束時間: 290時間 → 改善基準告示: ❌(284時間超)

結果: 改善基準告示違反 → 行政処分の対象

逆のパターン:

実労働時間: 190時間 → 労働基準法: ✅
時間外労働: 年間970時間 → 労働基準法: ❌(960時間超)

結果: 労働基準法違反 → 刑事罰の対象

つまり:

  • 労働基準法 ✅ + 改善基準告示 ✅ = 適法
  • どちらか一方でも ❌ = 違法

4. 運送業が今すぐ対応すべき10の重要ポイント

2024年の規制と2026年度以降の改正案を踏まえ、運送事業者が押さえるべきポイントを整理します。


ポイント① 時間外労働960時間の壁【最優先】

リスク

罰則: 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法違反)

管理のコツ

  • 月次管理: 毎月80時間以内を目安に
  • 年間計画: 1〜11月の累計を確認し、12月で調整
  • アラート設定: 年間800時間を超えたら要注意

管理表の例:

1月: 75時間(累計75時間)
2月: 82時間(累計157時間)
3月: 78時間(累計235時間)
...
11月: 870時間(累計) → 12月は90時間以下に抑える

ポイント② 休息期間11時間の確保【2024年基準】

✅ 2024年改善基準告示(施行済み)

  • 努力義務: 継続11時間以上
  • 最低基準: 継続9時間

📋 2026年度以降の改正案(検討中)

  • 義務化: 原則11時間、最低9時間

実務対応

配車システムでのチェック項目:

前日の退社時刻: 23:00
翌日の出社時刻: 10:00
休息期間: 11時間 ✅

前日の退社時刻: 23:00
翌日の出社時刻: 08:00
休息期間: 9時間 ⚠️(最低基準、義務化後は問題)

前日の退社時刻: 23:00
翌日の出社時刻: 07:00
休息期間: 8時間 ❌(違反)


5. 段階別対応ロードマップ【チェックリスト付】

「何から手をつければいいか分からない…」

そんな運送事業者のために、段階別の対応ロードマップを作成しました。


【緊急度★★★】今すぐ実施(2024年内)

☑️ 現状把握

  • □ 全ドライバーの労働時間実態を調査
  • □ 改善基準告示違反の有無をチェック
  • □ 年960時間を超える可能性のあるドライバーを特定

☑️ 勤怠管理システムの導入・更新

必須機能:

  • □ 拘束時間の自動集計
  • □ 休息期間のアラート機能
  • □ 430休憩のチェック機能
  • □ 年間時間外労働時間の累計表示

おすすめシステム:

  • デジタルタコグラフ連動型
  • クラウド型勤怠管理システム
  • GPS連動型

【緊急度★★☆】2025年中に実施

☑️ 配車システムの最適化

  • □ 休息期間を最優先にした配車ルールの確立
  • □ 長距離輸送の宿泊計画
  • □ 荷待ち時間削減の取り組み

【緊急度★☆☆】2026年に向けた準備

☑️ 情報収集

  • □ 厚生労働省の法改正情報を定期チェック
  • □ 業界団体(全日本トラック協会等)の情報収集
  • □ 社会保険労務士との定期相談

6. よくある質問(FAQ)

Q1. 改善基準告示に違反すると、どんな罰則がありますか?

A. 改善基準告示自体には直接的な罰則規定はありません。

しかし、違反が発覚すると:

国土交通省からの行政処分:

  • 車両停止処分(10日間〜)
  • 事業許可取消
  • 事業改善命令

労働基準法違反への発展: 改善基準告示違反が労働基準法違反(安全配慮義務違反等)と認定されると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

実質的に非常に重い処分が科される可能性があります。


まとめ: 法改正を企業成長のチャンスに

2024年問題、そして2026年度以降の労働基準法改正案。

規制強化の波は確かに厳しいものです。

しかし、早期に対応した企業こそが、優秀な人材を獲得し、持続的な成長を実現できます。


法改正対応の3つのメリット

メリット① 採用競争力の強化

「休息期間11時間確保」「週休2日制」「勤務間インターバル完備」

こうした労働環境は、ドライバー不足の時代、求職者にとって大きな魅力です。

メリット② 行政処分リスクの回避

改善基準告示違反による車両停止処分は、売上に直結します。

早期対応でリスクを最小化できます。

メリット③ 業務効率化の推進

法改正対応をきっかけに:

  • 配車システムの見直し
  • DX推進
  • 業務プロセスの最適化

結果として、生産性向上と収益性改善につながります。


今日から始める3つのアクション

  1. アクション① 現状把握
    • タイムカード・勤怠記録の分析
    • 改善基準告示違反の有無チェック
    • 労働時間実態の可視化
  2. アクション② 専門家への相談
    • 社会保険労務士への相談予約
    • 勤怠管理システムの資料請求
    • 業界団体のセミナー参加
  3. アクション③ 社内体制の整備
    • 法改正対応プロジェクトの立ち上げ
    • 担当者の明確化
    • スケジュールの作成

最後に

2026年度改正まで

「まだ時間がある」ではなく「あとわずかしかない」という危機感を持ちましょう。

法改正は「コスト増」ではなく「企業体質強化のチャンス」です。

この機会を活かし、10年後も選ばれる運送会社を目指してください。


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